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銀色揚羽蝶中毒(ただのお題ブログです)
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長編はあんまり得意じゃないので、ssで頑張ろうと思います。
別に内容考えてお題考えた訳じゃないので、なんでこんな変なお題考えたのかと今更ながらに小一時間(ry

普通にss描いてたはずがなぜか全部繋がったよ!! びっくり!!
あと先に言っときますが、最後のお話は全然思いつかなかったので結構投げやりです。複線ナニソレおいしいの。

一応追記より、1-10を使ってます。


 シャカシャカ
 ヘッドホンからはどこか懐かしいベースとドラムがとんでもない音量で流れてくる。ギターとヴォーカルは、今はない。それが今の自分にぴったりな気がして悔しくなって、もう上がらない音量を上げようと必死になる。
 みっともない。
 呟いて、ヘッドホンは放り投げた。零れ出る音楽からはギターとヴォーカルも聴こえてきて、私ばっかり一人ぼっちみたい。
 あの頃に戻れたなら。そう思って、自分の声を流している音楽プレイヤーを止めた。
 これで、本当に私は一人ぼっち。

(音漏れの悲しい忘れ物)


 少し歪に切られた足の爪を眺める。どうにも不器用なようで綺麗に切り揃えられなかったけど、あの子は気付いても気にしないって信じてる。だって私と違ってあの子は優しいもの。
 マニキュアの瓶を開けると、ツンとしたシンナーの臭いが部屋中に広がる。手の爪のそれよりはいくらか濃いピンクを足の爪に乗せて、いっかい、にかい、さんかい。きっちり三回で塗り潰された爪は歪さも相俟って花びらみたい。
 私の足が根っこになって身体が茎になって。そうして一輪の花になれたら、きっとどんなにか幸せだろうに。

(爪の先から、花)


 ぐじゃぐじゃになったイヤホンを見て、溜め息が漏れる。この間まで使っていた2000円という値段の割りに良かったイヤホンは雨の日に壊れてしまった。だから100均で売ってるイヤホンで次のイヤホンを買うまでの繋ぎにしようと思っていたのに、安物だからか、滑らないし絡まるし音は悪いしで、さっさと新しいイヤホンを買おうと思うと同時に二度と安物は使わないと決心した。
 電気屋さんに入ると、いた。あの子。いっつもヘッドホンをしててちょっぴり音漏れもしてて、顔は整ってるのに仏頂面で勿体無い。明るい髪色はいつ行っても綺麗にリタッチされていた。
 けど、今日だけは違った。根元から5センチくらい、地毛の黒が覗いてる。今日はヘッドホンからイヤホンに変わってて、音漏れも全然していない。仏頂面は相変わらずだけど。イヤホンの棚から覗き見ていると、彼女は泣いた。
 驚いて近寄って、彼女は真っ赤になった眼で私を見て、また少し泣いた。
 泣きつかれた彼女にコンビにで飲み物を買ってあげて話を聞いた。バンドをやってた事、バンド内でのいざこざから解散せざるを得なくなった事、彼女はヴォーカルとギターを担当していた事、ヘッドホンはバンド内で一番仲の良かったベースの男の子から貰った事、その男の子とも別れて今は一人っきりな事、ヘッドホンを使うのが億劫になってその場しのぎで安物のイヤホンにしてみた事、私がベースの男の子にちょっとだけ似てる事。
 ひとしきり話して落ち着いたのか、彼女は恥ずかしそうに笑って言った。イヤホン、どんなのが良いのか教えて。私も笑って言った。今度ギター教えてよ。
 絡むだけのイヤホンが、今日はとても大切に思われた。

(絡みついたコードは、あたし達みたいだった)


 緑色したベースを眺めてる彼女を見て、やっぱり忘れられないんだろうかと他人事のように思った。彼女はベースを弾いている俺が何よりもカッコイイと言って褒めてくれた数少ない人の一人だ。ギターとベースの区別もつかなかったけど、と思い出して一人苦笑する。
 俺の中で、あの日々は夢か何かに変わっている。
 辛かった事の方が多かった気がするのに、今となっては楽しかった事しか思い出せない。そんなの、夢だ。
 ねえ、このベース、エメラルドみたいで綺麗よ。弾かないの?
 彼女が薄いピンクで彩られた指先で飾られているベースを指差す。ベース、と彼女の口から言われたのが信じられなくて、何で、と言ったら彼女は笑った。
 あなたが演奏している楽器とそれ以外が見分けつかないの、かっこ悪いじゃない。
 あの日々はきっと夢だ。そして、今もその延長線上だ。
 幸せを直視するのが怖くて、俺はぎゅっと目を瞑った。

(えめらるどめらんこりっく!)


 ぶぢ、と気味の悪い音がしてピアスホールに血が滲む。サイズを間違えたらしい。久しぶりにコーンを通して、最後にこれを通したのはいつだったか、思い出したくなくて頭を振る。
 悪いのは誰でもない。タイミングが悪かっただけだ。でも、確実に僕は悪くない。
 思えば思うほど僕は過去に囚われて、熱を持ったピアスホールは縫い付けられたみたいにその円錐の針を突き出していた。

(螺子型ピアス)


 口先だけでなら、いくらでも幸せを語れる。でも私にその資格はどうやらないようだ。
 あの子の固くなった指先をつつく。ピンク色の私の爪がなんだか可笑しくて、馬鹿みたい、と言って一人で静かに笑った。
 端から見れば、今の私は充分幸せなんだろう。好きな人がいて、満ち足りた毎日を送って。だというのに、私は幸せだと思えないでいる。
 あの子はどうだろう。幸せだろうか。つついた指先が私の指を握り返す事は多分ない。

(指先マッサージ)


 ぱちり。世間で言うところの「なんちゃってネクタイ」を襟元に無理矢理つけて、私は新しく買った前と同じ2000円のイヤホンを耳にさして家を出た。数歩歩くと、いつもの自販機の前で彼女が待っていた。同じ学校の制服に身を包んでいるのが可笑しくて、会う度に二人でこっそり馬鹿みたいに笑っている。
 同じ学校だなんて、知らなかった。私も。偶然ってすごいね。
 色違いのネクタイはアンバランスで、一緒が良かったね。彼女は少し悲しそうな顔をして微笑んだ。

(ぱっちん、ネクタイ)


 乾いた音が部屋一杯に反響したかと思うと、俺の手の平は熱くなっていて、彼女は左の頬を押さえて目を見開いていた。
 まただ。またやってしまった。
 見開かれた瞳からはみるみる涙があふれ出てきて、後悔とかそんなものよりも、惰性の鬱陶しさばかりが俺の中を満たしていく。
 わたしのこと、すきっていったじゃない。
 彼女の言葉が痛いくらいに俺に降り注ぐ。

(好きって、なんだっけ)


 もう一回、バンド組みたいんだけど。久しぶりに聞いた声は前と変わらないようでやっぱり違った。前より随分刺々しいこの声は、何があってもあの子にだけは聞かせられないな、とも思った。
 また、邪魔だ何だと言って切り捨てたんだろ、お前の自分勝手な欲求で。言ってから気付いたけど、僕も大概酷い声色だった。あの子に知られたら、僕まで嫌われちゃいそうだ。
 忘れてないよ、お前が彼女にした事。僕は傷跡と一緒に手首の数珠を撫でた。

(ちぎれたヘアゴム)


 私はどうやら性別を間違えて生まれたらしく、心は女で体は男という実に奇妙な状況下で生きている。けれど他人が言う程に私は女ではなかったようで、一生を男のまま終える覚悟も決心もついている。
 彼女に言ったら、驚かれて確認されて、でも最終的には納得してくれた。嬉しいやら悲しいやら。
 ある日、前組んでたバンドのドラマーと名乗る男から電話が掛かってきて少し驚いた。彼女は何も教えてはくれなかったけど、ギターの元カレとの問題が、充分とは言わないまでも解決したらしい。
 安堵した彼女の瞳には前までの暗い影はなく、以前のように仏頂面で佇んでいる事もなくなった。
 遊びに行こうか。彼女が屈託のない笑顔で私に声を掛ける。私は外を見て、綺麗な青空ね、とだけ言って彼女の手を握った。

(空に、堕ちる)

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